情操教育
小学4年生の頃だったでしょうか
母がダンボールに入った子犬を貰って来てくれました
小さなダンボールの中で
夢中で白身魚のフライを食べている
性別はメス
柴犬のような姿をした
正真正銘の雑種犬でした
私は「コロ」と名付けました
ありふれたネーミングで申し訳なかったのですが
他に気の利いた名前を思い付かなかったのです
幼い頃の彼女は
夜鳴きがひどかったのを覚えています
噛み癖が出なかったのを覚えています
聞き分けが良く
お座りやお手やお替りなどは直ぐ覚えました
子供の頃の私は、軽く完璧主義で
完璧な対応を飼い犬にまで求めていました
私の姿を見たら
どんな時でも背筋を伸ばして座りなおし
ジッと私を待っているように
相当厳しくしつけました
結構叩きました
そうすると直ぐ覚えたのです
折角そうやって色々覚えさせたのですが
中学~高校と進むうちに
コロは私の中で小さな存在になっていました
部活で夜遅く帰り
薄暗い勝手口から家に入る私を
コロは
ビシッとした姿勢で見守っていたのを
私は覚えていません
しつけた事を忘れたの?
そうではありませんでした
高校1年の夏
コロは吐血して倒れました
すぐ獣医に運びました
今夜が峠だと言われ
連れて帰りました
知らない間に
彼女は年を取っていました
いいえ
知ろうとしないだけでした
ごめん
今さら遅いけど
そう思いました
今さらだけど
心配になって犬小屋をのぞきに行きました
あれからまた吐血したのでしょう
コロは
ゼーゼー荒い息をしながら
口に乾いた血をこびりつかせ
眠っていました
「コロ・・・」
小さく呼びかけると彼女は気付き
ふるえて力の入らない前足で
懸命に座ろうとしました
「あ!コラじっとしてろ」
(すいません今姿勢を正しますから)
「ダメだって寝てろよ」
(すいませんもう少しです)
「・・・・・」
(すいませんブタナイデ)
(いつもは出来るんです)
(あれ オカシイナ すいません)
涙が出てきました
時間を戻したいと思いました
必要最低限のしつけだけすればよかったと思いました
もしも神様が存在するなら
これは罰なんだろうと思いました
フラフラしながら何度も座ろうとする彼女を
楽にさせる方法のうち
私にできる事は
彼女の視界から消える事だけでした
未明から降っていた雷雨が上がった翌朝
彼女は冷たくなっていました
私が飼った
多分私を主人と思ってくれた
最初で最後の犬でした
──────
これから先
私は犬を飼おうとは思いません
あんなヒドイ大失敗を
二度と繰り返したくないからです
でも
もし私に子供ができて
犬を飼いたいといったら
是非飼わせたいと思います
色々な事を学べると思うからです
でも私のような
二度と取り返せない失敗をさせないために
犬の入ったダンボールと一緒に
この本を
贈りたいと思います
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犬と私の10の約束
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